須賀しのぶ『ブラック・ベルベット 神が見棄てた土地と黒き聖女』

最近読んだ小説でいちばん面白かったのがこれ。
須賀しのぶという人はコバルトでは珍しく、軍隊モノとか柳生モノとかミョーに男っぽい作品を書いてる作家。それで以前から気になってて何冊か読んでみたんだけど、やっぱ男性キャラが理想化されすぎてて、どれもちょっといまひとつだった。
でもこの作品は面白い。
舞台は、戦争で荒れ果て、野生化した生物兵器が徘徊する、近未来の荒野の町。そこでタトゥーマニアのウェイトレス、バリバリ少女趣味の娼婦、そしてお嬢様育ちで世間知らずな凄腕賞金稼ぎが出会い、いろいろあって町の実力者の悪徳神父と戦う話。端的に言えば乙女チック西部劇。
改めて書いてみるとすさまじくありえねーキャラ設定だけど、この三人がほんっとーに生き生きとしていて良い。あとがきで作者が「イキのいい女の子たちがとにかく賑やかに騒ぎつつ暴れまくる話」と語っているけどまさにその通りで、ハードボイルドな世界から浮き上がってしまうくらいに彼女たちは、女の子であることの楽しさを見せつけてくれる。
でもそれは偶然の出会いがもたらした一瞬の夢。どうあがいても彼女たちはやはりハードボイルドな世界の住人で、自由は砂嵐の向こうの青空のように遠い存在。互いのことを大切に思うがゆえに、彼女たちは訣別を選ばざるを得なくなる。果たして三人の友情の行方は……。
とまあそんな感じの、痛快でそして切ないワイルダネスアドベンチャーである。いやあコバルトにこんな熱い話があるとは。

ただこの作品、シリーズとして続いていて現在4巻まで出てるんだけど、2巻以降はあんまり面白くない。なんか巨大国家の秘密を巡って美形の坊さんたちと戦う話になってっちゃって……。俺としてはこの三人がフリフリ少女趣味インテリア満載のトレーラーをかっとばしながら暴れ回る話を期待してたので、すごく残念。この人はやっぱり女の子メインの話の方が面白いと思うんだけどなあ。