ホテル・ルワンダ

渋谷のシアターN(旧ユーロスペース)に見に行ったのだけど、昨日の夜行ったら最終回まで満席で入れず、今日も昼ぐらいに行って最終回の整理券がわずかに残ってたってくらいだから、かなり予想以上の客入りの様子。すでに計31館での上映が決まってるって話だし、まずはめでたい。


で肝心の映画の中身ですが、いや面白かったですよ。かなり。
ジャンルとしては社会派サバイバルホラーって感じ? ゾンビも吸血鬼も出てこないけどホラーだよなこれ。
冴えないホテル支配人が気がついたら民族浄化の修羅場の真っ只中に置かれていて、家族親戚ご近所のみなさんその他もろもろ1200人を虐殺の魔の手から守るため孤軍奮闘するというお話なわけですが、危機また危機、助かったと思ったらさらに絶望的な状況がっ、というスペクタクルな展開がきちんと手抜きなく構築されていて、活劇映画としてちゃんハラハラドキドキできる。
でキャラクターの造型がまた良い。ドン・チードル演ずる主人公のポールはあっちにゴマすりこっちにへつらって生きているようなけっこうこすっからい奴で、それが何の因果か1200人の命を背負って駆けずり回るハメになるってあたりがかなり泣ける。しかもその1200人を救うために彼ができることが、賄賂を贈ったり電話を掛けまくったり軍の高官を騙くらかしたりすることだけだったりするあたりがまた泣ける。
あと国連軍の大佐がまた良い。なぜか顔がブッシュ大統領にそっくりなんだけど。ブッシュにそっくりってことはつまりものすごくダメっぽい感じな顔なわけで、実際最初は「いやーうちらは平和維持部隊なんで介入はできませんからー」とか言ってかなりダメなんだけど、ポールと行動をともにしてるうちに感化されたのかだんだん気合いが入ってくる。かなりヤバい橋を渡っちゃったりもする。
この、一見かなりダメっぽい感じの人たちが「別に英雄になりたいわけじゃないけど……でも……見捨てられないじゃん!」みたいなものすごく消極的な勢いでがんばってしまうあたりがかなり良いです。
ただ見終わったあとに非常にやるせない気分になるのは間違いないので、社会問題とかに対する距離の取り方に自信のない人はお気をつけください。


あと、これはちょっと余談になるけど。
町山智浩氏がブログで、ポールがツチ族の人たちを匿ったのはホテルマンとしての職業倫理からだということを書いていて、
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060114
それに大して↓こちらで職業倫理をあんまり信用するのもどうかといったような意見が出てるのだけど、
http://d.hatena.ne.jp/lazarus_long/20060116/p2
しかしそもそもポールが彼らを匿ったのは「ホテルマンだから」ではないんじゃないかなあ。彼がホテル支配人としての立場にこだわったのは、それしか彼らを救う方法がなかったからで、動機自体はキャッチコピーにあるとおり「『愛する家族を守りたい。』ただひとつの強い思いが、1200人の命を救った」ってことなんじゃないかと思う。ホテルマンとしての立場はむしろ逸脱してないか? あれ。
まあ「アフリカに対して何ができるかとか考えるよりも、自分がポールと同じ立場に置かれたときに正しく振舞えるようきちんと倫理意識を鍛えとけ」という主張には極めて同意なのですが。


あー、でもやっぱりこの映画の紹介としては町山氏のこの文章がいちばん適確だなあ。とりあえずリンクしとく。
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20050226