『龍が如く』クリア

意外と、地雷でもなければ爆弾でもなかったですよ。粗は多いけどけっこうよくできてる。ネタでやってるかド天然でずれまくりのどっちかだと思ったんだけど、いま風じゃないのを分かった上で照れも逃げもなくきちんと作ってる。そういうとこも含めて、現代を舞台にした『猫侍』だよね、これは。


シェンムー』もこういうことをやろうとしたんだと思う。だけど鈴木裕は、ゲームってのは現実をそのまま再現するものではなくて、現実からある特定の面白さを取り出してモデル化するものなんだってことをよく分かってなかったんだと思う。レースゲームとか格闘ゲームみたいに、最初っからその取り出すべき面白さの種類が規定されている場合には、彼のリアリズムへの拘りは非常にうまく機能したんだけどね。


で、どこが『猫侍』なのかというと、ゲーム内で実現されている物語性の性格が非常に似てると思うのだ。


物語性をもつゲームのジャンルとしては、おおざっぱに言ってアドベンチャーゲームロールプレイングゲームシミュレーションゲームの3つがある。
かなり勝手な定義で言わせてもらえば、アドベンチャーゲームというのは、映画や小説に近い、かなりリニアな物語構造をもったゲームのことだ。完全に一本道ではないけれど基本的な筋道は決まっていて、それが多少分岐したりする。
一方シミュレーションゲームというのは、あまりきっちりとした物語構造をもたない。キャラクターやイベントが特定の関係性を定められないまま配置されていて、それらが組み合わさって偶発的に物語を生成していく。
(ちなみにここで言うシミュレーションゲームというのは『大戦略』みたいないわゆる戦略シミュレーションだけじゃなくて、『ときめきメモリアル』や『シムシティ』、それから『ガンパレードマーチ』みたいなものまで含んでいる。念のため)


アドベンチャーゲーム的なシステムの方が、物語としての構築度は高くなる。だけど構築度が高い方がいいってだけなら、ゲームは物語メディアとして永遠に小説や映画には勝てない。
にもかかわらず物語メディアとしてのゲームが必要とされているのは、ゲームの方が現前性の高い、つまりその物語の中に生きているかのような体験をもたらしてくれるからだ。
高い現前性を成立させるためには、ゲーム世界はなるべくリアルである必要がある。プレイヤーの働きかけに対して現実のように多種多様な反応を示してくれなくてはならない。それを追求するとシミュレーションゲームになる。
しかしシミュレーションとしての精緻さを追求すればするほど、それは物語性からは遠ざかる。物語というのは現実(とも限らないが)を抽象化しモデル化するものだからだ。そして現前性が高い方がいいってだけなら、ゲームは永遠に「現実」には勝てない。


だから物語メディアとしてゲームが目指すべきことは、「小説や映画のように高い構築性をもった物語を、現実のように高い現前性をもって体験させること」なのだ。言い換えるなら、ゲームが作り出すべきは物語そのものでもなければバーチャルな世界そのものでもなく、「物語に満たされた世界」なのだ、と言ってもいい。


物語メディアとしてのゲームは、そのような隘路の中にある。だから実際には完全なるアドベンチャーゲームも完全なるシミュレーションゲームも存在せず、あらゆるゲームはその両者の要素をさまざまな形で組み合わせることで成立している。
そのひとつの形として、ロールプレイングゲームというフォーマットが存在した。しかしもはやロールプレイングゲームは、アドベンチャー的な方向性とシミュレーション的な方向性に引き裂かれて、ジャンルとしての実体をもっていないように思われる。まあ、最初っからシステム的には実体なんてなかったようなものだけど、それでもロールプレイングゲームでしか実現できない物語体験というのは確かにあった。
そしてそれと同じような物語体験を、システム的にはまったく異なる文脈から実現したのが『猫侍』であり、『龍が如く』なのではないだろうか……とようやく本題に戻った(笑)。


もっともシステム的に言えば、『猫侍』を引き合いに出すまでもなく、『同級生』をもっとリニアにして3Dにしてアダルティにしただけじゃねーの?と言われればそのとおりだと思う。さらに言えばこれは要するにアクション性の強いシティアドベンチャー型のロールプレイングゲームだという言い方もできるだろう。
だから別に『猫侍』や『龍が如く』がシステム的に斬新だと言うつもりはない。
しかしロールプレイングゲームが解体されていく中で『猫侍』という奇妙な作品が現れたとき俺は非常に嬉しかったし、そしてまたまったく別の文脈から作られたであろうこの『龍が如く』というゲームで同じような感覚を味わえたことは、やはり非常に嬉しい。
ロールプレイングゲーム的な物語体験、特に『トーキョーN◎VA』や『サタスペ』のようなものをこよなく愛する者としてね。
なんか長くなっちゃったけど、まあ、それだけのことだ。


いやなんか抽象的な話ばっかりになっちゃったけど、具体的なところで言えば文句をつけたいところはいろいろある。
まず構成が割といいかげんだよなー。物語上重要なキャラクターがあまりきちんと演出されてなかったり、逆に重要そうに描かれてるキャラクターが実はあんまり重要じゃなかったり。それにもうちょっと、メインストーリーの展開にそれなりに関わるけど必須ではない程度のサブストーリーがあった方がよかったかなあとか。
キャラクターもヤクザものだったらもっとフリーキーでアクの強いのがいっぱいいるべきだろうと思う。真島兄さんはとっても素晴らしいんだが、それくらい。
あとハードウェア的な限界を感じる個所も多かった。特に、イベントムービーで数十人のヤクザが一斉に襲い掛かってきて、うぉー燃えるぜーとか思ったら、バトルシーンでは5人くらいずつ順番に攻撃してくるだけだったりとかね。PS3だったら「総勢百人を越すヤクザ同士の抗争シーン」とかできるのかなあ。
そして何より、操作性が悪すぎるのがなあ。特に戦闘ではコンボ入り始めるともうどうしようもないので、分かってるのに何もできないというストレスが非常にたまる。この点だけで、「アクションものに耐性のない人にはオススメできない」と言わざるを得ない。


とまあいろいろ粗はあるんだけど、ネタ的にもシステム的にも大好きな方向性だし、ストーリーもうるっと来るところはいくつもあった。なので、ぜひPS3で続編を作ってください。お願いしますセガ様。