伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』

主にヨーロッパの文物に関するやたらと濃い趣味的エッセイ。伊丹十三は、上っ面だけヨーロッパの流儀を真似てハイセンスを気取る半可通が、本当に嫌いだったみたいだ。
しかしそういう極めて厳格な美意識を持っていたこの人が、『マルサの女』以降、ある意味かなり悪趣味というか非常に俗っぽい作品ばかり作るようになっていったってのは、どういう心境だったんだろう。
そういう作品にこそ俺は伊丹十三の映画監督としてのスゴさを感じるのだけど(だってあの当時、シネフィルでもなんでもない三十代以上の普通のおっちゃんおばちゃんを映画館に呼べたのは、邦画では山田洋次とこの人くらいではないのか?)、でももしかするとそういうのばっかりってのも不本意だったのかな。
ことにああいう死に方しちゃったので、そこがずっと気になっている。


ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

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